ええと、お別れの言葉。

すいません、なんか諸事情につきわたくし、ここから消え去ります。

ええと、ようは結構リアルでもいっぱいいっぱいな状態でして、ぶっちゃけ言っちゃうと小説を書く自信がないんですよ。

本当はここに書き記すのも結構怖くてですね、でもやっぱりお世話になった人はたくさんいます。
だからせめてここに書き記しておこうと……。

九月に入った時点で、ここ撤去します。

一応原因としては、小説のストーリーをまとめていたら修正がきかなくなり、最初から書きなおすことにしたんです。
多分どこかでまた別のサイト立ち上げてるかもしれません。
似たような話とか似たような名前、同じだと思われる節があれば、きっと私ですね、はいww


ですがここを撤去した後でも、皆さんの所に顔を出しているかもしれないんで、その時は生ぬるい目で見ていただけると幸いです。



えー……チキンでシャイでデリケートなんで、そろそろこの辺で。

さようならです。



水底に眠る夢の話 5



「あーどうすっかなぁ……」
 表通りの騒々しさとは違った閑静な路地裏を、重い足取りで歩いていくヨハン。路地裏は複雑に入り組んでいて、田舎者が来たらまず迷子になるくらい、蜘蛛の網目なみのめちゃくちゃさだ。
 ここには表の光も喧騒もない。あるのは時代の荒波に置いて行かれた哀れな人間のみ。生きることを止めた廃人、怪しい商売人、娼婦館やそれに準ずる酒場――裏の顔、といっても過言ではない。
 ところどころ睨めつけられたり、嘲笑われたりする心当たりは全く持ってなかった。

 さっさとこんなところから出よう――さらに小さな路地に入ったとき、むにゅっ、とした何かを踏んだ。
 むにゅ。

「むにゅ?」

 猫か!? と咄嗟に思って足を退けたヨハンが見たのは、ボロボロのローブに包まれた、みすぼらしい少年だった。
「うぅっ……」
「……」

 少年はうつ伏せにそこに倒れていて、閉じた瞼を飾る長い睫が、フルフルと震えている。
 倒れながら、うなされている……。
 半ば唖然としたヨハンは、人としてどうやって行動をとるべきか判断するまで約一秒。そのまま膝を折り、顔を覗き込んだ。
「おい少年、大丈夫か? 生きてたらうんとかすんとかなんか言ってみてくれや」
「ぅっ……」
「……生きてるのは確かか」
 意識を失っている。揺さぶっても起きそうにない。頬をペチペチ叩いても、少し身じろぎしてまた動かなくなった。
「……」
 年の頃は十三、四くらいか……サニーと変わらない年代だろう。頬にかかる髪の毛を払って、ヨハンは眼を眇めた。


 今さっき拝受してきた魔道士討伐の任務は、意外に早く終わりそうかもしれない――少年に触れた時に察した違和感で、ヨハンはそう判断した。

水底に眠る夢の話 4


 かつて軍の研究者たちは、兵器を作ろうとして遺伝子を弄った。その結果生み出されたのは、魔法と呼ばれる超現象を引き起こす者たち――【魔道士】だった。この実験は成功したかに思われたが、魔道士は強力な力を得たために失っていくものも多かった。
 実験が成功しても、目が見えなくなっていたり、耳が聞こえなくなったりしている場合がほとんどで、何も失わないで成功した者はほとんどいなかった。

 そして一番大きかった問題が、身体の老化だった。

 魔道士の犠牲となったのは、主に幼児期の子供たち。中には胎児もいた。しかし魔道士として細胞を埋め込まれた彼らは、急速に老いを知る。一年で十年も歳をとる者だって現れた。改造された肉体が生命として機能するのは、十年が限度……という残酷な余命も、魔道士には待っていた。
 さらに絶望的な事実がまだある。
 魔道というのは本来、世界の禁忌に触れる事項だ。研究所から見放された魔道士(失敗作含め)は、時が経つにつれて人間としての理性を忘れてしまう。そうして魔道に堕ちてしまった人間を、人々は畏怖を込めてこう呼んだ。

 【忌むべき存在(ファントム)】と。


 退治屋の仕事の中には、人々をファントムから護るという名目上、ファントムを退治する、というものもあった。


 ファントムは厄介なことこの上ない相手だ。
 面倒な仕事を押し付けられたものだ――この都一番の退治屋だからこそ頼んできたんだろうが、これはヨハンにとって精神的な、人間としての何かが快く思わない。
「……」
 書類を持ったままうんともすんとも言わなくなった退治屋を見、マーシャは付け加えた。
「今回退治するファントムは、まだ完全にファントム化していない」
「……まだ魔道士ってことだよな?」
 言っている意味を理解し、まさか、と自分で言ったことをヨハンは否定した。だが、マーシャはフッと笑って肩を竦めた。それは諦めにも似た感情を含んでいる。
「魔道士だ。研究所から逃げ出して、ここにいるという報告だけを受けた」
「……魔道士だぞ?」
「だから逃げたんだってさっきから言ってるだろ何回も。どの耳つけてんだ。この手の話もあり得ないわけでもない。むしろ過去に何度かあったではないか」
「……」

 彼女の言うとおりだった。別に魔道士が研究所を逃げ出すということは、全くない話でもない。精神的・肉体的に耐え切れなくなった者は研究所を逃げ出そうとし、無事逃げられる者もいる。
 逃げたとしても、魔道士が一人で生きてはいけない。放っておいたら劣化が進んでファントム化するからだ。ファントムになられると被害しかでないので、軍に任せて始末させる。

 ちなみに退治屋も一応『名簿』に登録しているため、軍人としての肩書きも持つが、どちらかといえば傭兵に近い。


 最悪だな――ヨハンは心中で呟いて、肩を竦めた。どのみち魔道士は殺すしかない。

「分かったよ。やりゃいいんだろ、やれば」
 半ば投げやりに承諾したヨハンの返事を聞き、マーシャはぱっと顔を挙げた。そして嘘っぽい笑顔を満開にする。
「やってくれるのか? お前ならそう言ってくれると思っていた!」
「今さらそんな台詞、白々しいから吐くな」
 どうせ引き受けるか、全力で引き受けるか、のどちらかしか選択肢はないのだ。気だるいうえに気も進まない(どっちかっていうと後退気味)が、引き受けなければ今後の自分に関わるかもしれない。リストラ的な意味で。

 問題はいくつかある。ヨハンは書類を眺めながら、どうやってさっさとこの任務を終わらせるか――その対策法を考えていた。


水底に眠る夢の話 3


 主に中も白を基調とした役場の四階に、ヨハンが会うべき人間がいる。
「あっ、ヨハンさんじゃないですか! おはようございます」
「おー、はよー」
「ヨハンさんっ、お疲れ様っす!」
「お疲れさん」
 書類を抱えて廊下を行き交うこの階の住人は、大抵ヨハンとすれ違う度に挨拶をしてきたり、軽く肩を小突いてきたりする。しょっちゅう来ているせいか、すっかり顔を覚えられているようだ。

 いろいろと世話になっているから――ヨハンは一室の前で立ち止まって、軽くノックした。
「俺だけど」
「入っていいぞ」
 声を聞いただけで中に入れるとは、大分信頼されているものである。内心苦笑しながら、ヨハンは扉を押しあける。

 机に向ってペンを走らせているのは、ヨハンとそう歳も変わらなさそうな女だった。

 バリバリ仕事しそうなタイプの女は、顔も挙げずにヨハンだと確認し、机の上にある時計をちらりと見た。
「もう来たのか。お前にしては珍しいな、予定時刻三十分前行動というのは」
「サニーに起こされたんだよ。俺はもっと寝ていたかった」
 眠気を思い出してしまい、出そうになった欠伸を噛み殺す。しかし少し眠そうにも見えるヨハンの様子を見て、秘書に指示を出しながら女は不審そうな顔をした。
「まだ一緒に寝てるのか?」
「寂しいんだと、一人で寝るのは」

 自称十六、一緒に暮らし始めて一年弱も経つが、サニーは週に六回の回数でヨハンと一緒に寝ている。残りの一回はどうやら外で何かしているらしい。
 ふむ……と頷き、しかしながらヨハンの腰元にいない姿に首を傾げる。
「それで、今日サニーはどこに行った? いつもならぴったりお前についてくるのに」
「昨日パジャマ失くしたことに拗ねて、一人で草原に遊びに行った」
 近況報告をしている間に、秘書が珈琲を持ってきてくれた。女もヨハンの座るソファの正面に腰を下ろす。

 女性にしてはやや身長は高く、肩幅も広い。胸も大きいというわけでもないが、小さくもなく、すっきりした体格である。きつめの碧眼には上に立つ者の責任感と威厳を備え、褪せた金髪は後ろで一つにくくられ、白の髪留めでうなじをあげていた。

 役場の中には、【生活保安機関】という、外部から、もしくは調査で得た魔物や犯罪者についての情報を扱い、人々の生活を脅かす存在を除去する機関が存在する。
 彼らは退治屋や賞金稼ぎを生業とする者たちを登録し、主に彼らと依頼主を繋ぐことを役目としている。そこに属する彼女は、二十九という三十路を目前にして、異例の若さでここの司令官を任された。

 ちらりと女はヨハンを見て、世間話でも、と思い訊ねた。
「とくに様子が変わったことといえば?」
「なにも――ああ、いや、アニメにはまってる。しかも異常にな。いつもテレビの前で踊ってる」
「……子供向け番組か」
「そう。『ミラふる』っていう……女の子向けの、アニメだな」
「……そうか」
 どこに突っ込んでいいのか分からず、しかも突っ込むこと自体憚られ、女は特に何も言わなかった。ヨハンも何も言ってほしくなくて、変に突っ込まれて答えられる自信はない。
「それで、マーシャ。俺をわざわざ呼び出して何の依頼だ?」
「本業だ」
 女――マーシャは冷たくそう言い放ち、テーブルの上に一枚の書類を置いた。それを手にとり、目で文字を追う。
「……」
「……」
 優雅に珈琲を飲むマーシャと違い、徐々に顔つきが険しくなっていくヨハン。そして読み終わると、溜め息をついた。ヨハンが何かを言う前に、マーシャが告げる。
「これは治安を守るために、代表からの依頼だ。言わば国のため、金は出るし名誉ももらえる」
「だが後味の悪い仕事だぞ?」
「お前ら退治屋はこれが本業ではないか」
 どうにもならない依頼をどうにかしようともがく様を見て、マーシャが鼻で嗤った。高圧的なその態度は、『退治屋』を見下している。


 そういう態度には慣れている――ヨハンはそう動揺することもなく、視線を再び文面に落とした。



水底に眠る夢の話 2

 活気溢れる都、ヴィオキス。今日は休日のせいか家族で出かける人々も多いうえに、さらに月一の市場が商店街の方で開かれている。国中からたくさんの露天商が来て、地方の特産品や他国の商品を売り付けるのだ。
 人がいるところで街は潤う。四方八方からたくさんの声があがり、都はいつも以上の賑わいに包まれていた。
 今日は天気もいい――こんな日は郊外の野原に出かけてゆっくりするか、家で眠っていたい気分なのだが……。

「なんだって休日に役場に来なきゃいけないんだ……」

 憂鬱なヨハンとは対照的な、眩いばかりに白い建物を恨めしく思う。広い敷地に立つその建物は五階建てで、この都の中央に建っている。そのことから、この建物は【中央役場】と言われていた。

 役場は表向き民衆に対して、安全で暮らしやすい生活を作ることが目標である。だが、他にもヨハンのような魔物を狩ることを専門にする退治屋(ハンター)や、賞金稼ぎなどがいろいろと以来を引き受けたり、仕事をもらいに行ったりするところでもあるのだ。
 なので、役場には普通のひ弱そうな姿をした迷える人間から、屈強な身体の怪しい風貌の男まで自由に行き来できる。
 自動ドアが開き中に入ると、人工的に澄まされた空気が漂っていた。季節によって冷暖房がちゃんと機能し、設定温度もばっちりでロビーで快適な昼寝ができることを、ヨハンは知っている。

 受付には二人の女性がいて、どちらも知り合い。

 片方の受付嬢がヨハンの姿を発見するや、顔に私情を含んだ柔らかな笑みを浮かべた。
「久しぶり、ヨハン。また何かしたの?」
「久しぶりだな、アレスト。残念だけど何かした覚えはないぞ」
 にこやかに笑う受付嬢のアレストに軽く微笑み返し、ヨハンは机に腕を乗せた。
「マーシャはいるか? あいつに呼ばれたんだよ」
「話は聞いてるわ。はい、部屋で待ってるそうよ」

 アレストはヨハンの名前を名簿に書き入れ、他の人には気付かれないように軽く手を振って見送った。ヨハンも視線だけを返し、後ろ向きに手を挙げただけだった。